2026年7月29日水曜日

多粒子分配関数と最大項近似


今回の記事は前回のブログ「最大項近似の意味とは何か」の続編です。多項式を展開した場合の最大項近似についてまとめました。 


1. はじめに

統計力学において、分配関数は系の熱力学的性質を決定する基本量である。本稿では、多項式である多粒子系の分配関数とその最大項は、対数オーダーが等しいことを示す。まず、非相互作用・区別可能粒子系において分配関数が1粒子分配関数の積として表されることを示し、その多項展開から粒子分布を導く。さらに、スターリング近似とオーダー評価を用いて、粒子数が1023程度に達する熱力学極限において対数をとれば分配関数と最大項とが等オーダーになることを明らかにする。

2.  1粒子分配関数と多粒子系

N個の粒子からなる系において、N個のうちni 個をエネルギーεiの準位に配置する。このとき、粒子の総数Nと系全体のエネルギーがそれぞれ一定として、粒子の配置数が最大となる条件を求める。ラグランジュ未定乗数法により、エネルギー準位εiを占める粒子の存在確率は、 

で与えられる。そして、分配関数(1粒子分配関数)がこの式の分母

で定義される。Mは粒子が占めることのできるエネルギー準位の総数である。

 まず、2粒子からなる系を考える。粒子間相互作用がなく、粒子が識別可能であると仮定する。粒子1と粒子2それぞれに対する1粒子分配関数を

とすると、2粒子系の分配関数は、取り得る微視的状態の全ての組み合わせにわたる和として

と表される。同種粒子の場合には (z1 = z2 = z) であるから

となる。この議論は任意の粒子数Nに拡張でき、N個の粒子からなる系の分配関数は

右辺の各級数は粒子が同種なら値が等しいので、各級数を(1)で表して

と得られる。よって、粒子間相互作用がなく、粒子が識別可能である場合には、全系の分配関数は1粒子分配関数の積に分解されることが分かる。

  

3. 多項展開と粒子分布表示

(2)を多項展開すると


右辺のeの肩に乗っている和 を、粒子の配置(粒子分布){n1, n2, , nM} に対応する系のエネルギーEjjは配置の番号)とおき、その配置での組み合わせの数 Gjとおくと

となる。ここで、M′(3-1)の和の項数で、粒子配置の総数に対応する。これは

を満たす非負整数解の個数、すなわち重複組合せの数

で与えられる。M 一定(したがってN>>M となりうる)の場合には

と導かれる[i])Zは系のとるすべてのエネルギー状態についてGje - Ej /kTの和をとったものであり、カノニカル分布に従う多粒子系の分配関数にほかならない。

 

5. 分配関数Zの最大項近似

これ以降では、近似記号

の意味で用いる。式(3-2)右辺の最大項を 


として、両辺の対数をとる。
ここで
と表わし、スターリングの近似式として

を使うと
となる。

  

 ところで、(3-2)における

を、条件 Σni=N,  Σniεi=E のもとで最大にするniは、ボルツマン分布を導出する手続きによって

と求められる。ここで1粒子分配関数をzとおいた。(8)より

と定義する。

を(7)に代入して

と得られる。ただし非相互作用・区別可能粒子系に対してはZ=zNであるから

この関係と(6)を使って変形すると、式(9)

となり、厳密値Zと最大項 それぞれの対数の差が補正項に等しいことを示す次式が求まる。


6.誤差評価

(11)式の右辺で

そして、piは温度とエネルギー準位のみによって定まり、粒子数Nには依存しないので、

は定数項である。よって

と得られる。最大項 の近傍には多数の項が存在するが、(11)とこの式からその寄与を全て加えても対数を取れば補正値は高々O(logN) にとどまることが読み取られる。そして、 

であるから

よって、

が成り立つ。したがって、熱力学極限 では、分配関数と最大項はそれぞれの対数をとると等オーダーになる。分配関数そのものを一つの項で近似するというのではなく、このように最大項をスケール変換して近似するところに最大項近似の真意がある。

 

7.ヘルムホルツの自由エネルギーと分配関数Z

最後に、ヘルムホルツの自由エネルギーと分配関数Zとの関係を考察する。熱力学の自由エネルギーUTは、ボルツマン原理SklogWを用いると次のように書き換えられる。

一方、熱力学の状態量 F は分配関数Z によって

と表わされる。したがって、形式的には

という関係が得られる。ただし、この式は厳密な等式ではなく、熱力学極限において(6)と(11)から得られる近似式

において、GmaxWEmax=Uのときに成り立つ関係であると理解すべきである。



[i]) (4)を導くための計算は次の通りである。

右辺の分子はM1個の括弧の中がすべてNのときとすべてN+Mのときそれぞれの値で挟まれるので

となって、N>>Mとすると

となり、不等号で挟まれた式の値はNM-1で近似される。よって


  

0 件のコメント:

コメントを投稿