2021年2月14日日曜日

新型コロナウイルス肺炎の致死率―2021年1月厚労省発表の抗体保有率を使って計算

 

厚生労働省は、202125日に、新型コロナウイルスに対する抗体検査を行った結果を発表しました。検査の行われた5都府県の抗体保有率(抗体を持っている住民の割合)は、東京都0.91%、大阪府0.58%、愛知県0.54%、福岡県0.19%、宮城県0.14%でした。メディアの報道[1]では、1%足らずの住民しか集団免疫を獲得していないので、今後も感染防止対策が大切であることが強調されました。しかし、抗体保有率の値からもう一つ重要な知見が得られるのですが、看過されたようです。その知見とは、新型コロナウイルス肺炎に罹っても感染したことを自覚しない人が多数いるということです。この知見に至る考察を通して、検査時点の感染者の累計数と新型コロナウイルス肺炎の致死率を推定しました。

 

 

まず、抗体保有率から無症状感染者の数を求めます。愛知県を例に挙げて説明しましょう。抗体検査は、昨年の1214~25日に実施されました。検査対象者は、検査に応募した20歳以上の県民(2万人弱)のなかから、性別、年齢、居住地域の分布が、県の人口のそれぞれの分布と等しくなるように3,300人が抽出され、実際には2,960⼈が受検しました。そして、2種類の検査試薬(アボット社・ロシュ社)の両⽅で陽性だった人が「陽性」と判定されました[2]。このように注意を払って行われた検査なので、結果は県内の新型コロナウイルス感染の実態を十分反映するものと考えられます。愛知県の人口は7,536,639 人(2021年1月1日現在の推計)[3]、抗体保有率が0.54%だから、無症状感染者の数は40,700です。一方、検査が実施された頃(昨年の1220)PCR陽性者数の累計[4]14,145でした。無症状感染者数がPCR陽性判定を受けた人数の2.9倍だったことを意味します。

 

次に、致死率の計算に移ります。上の無症状感染者の数とPCR陽性者数の累計から、検査時点の感染者の累計は54,800人となります。昨年の1220日現在の死亡者数 [4]の累計が163だったので、致死率(死亡数/感染者数)は(163/54,800)×100 = 0.297%と計算されます。以前のブログ「『新型コロナウイルス肺炎』雑感」[5]で、昨年421日現在の死亡者の累計(20人)から致死率0.2%を仮定して無症状感染者の数を推定しました。そのとき用いた致死率0.2%は、米国カリフォルニア州のある地域で行われた住民の抗体検査の結果に基づいたものですが、今回の計算による値(約0.3%)と大差のないことが確認されました。

 

上記の議論では、簡単のために抗体保有者数が無症状感染者の数に等しいとして計算しましたが、これは荒っぽすぎるかもしれません。一度感染したのちに抗体がなくなる人もいると考えられるからです。しかし、新型コロナウイルスの感染者が抗体を長期にわたって保持しているという研究結果[6]があるので、わが国で最初の患者が発見されてから検査までの期間が11か月で、初期には感染者が少なかったことを考慮すると、そのような人の数はさほど多くないと考えられます。したがって、上記の致死率約0.3%は「おおよその致死率」とみるのが妥当ですが、実際の致死率に近いと推測されます。


[1] https://digital.asahi.com/articles/ASP253D7YP25ULBJ002.html?iref=pc_ss_date_article

[2]https://www.pref.aichi.jp/site/covid19-aichi/koutaikekka.html#:~:text=%E6%84%9B%E7%9F%A5%E7%9C%8C%E3%81%A7%E3%81%AF%E3%80%81%E5%8F%97%E6%A4%9C%E8%80%85,%E3%81%AF0.54%EF%BC%85%E3%81%A7%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82&text=%E2%80%BB%20%E4%BB%8A%E5%9B%9E%E3%81%AE%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E3%81%AF,%E7%AC%AC2%E5%9B%9E%E3%81%AE%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E3%80%82

[3] https://www.pref.aichi.jp/uploaded/life/328076_1290782_misc.pdf

[4] https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data/pref/aichi.html

[5] https://retiredsci3.blogspot.com/2020/05/blog-post.html この記事では、名古屋市について計算し、無症状の感染者がPCR検査陽性者の40倍いると書きました。一方、今回の考察では2.9(愛知県)でした。この違いには、昨年4月に比べて12月にはPCR検査数が顕著に多くなったことが響いていると考えられます。

[6] Jennifer M. Dan et al.: Immunological memory to SARS-CoV-2 assessed for

up to 8 months after infection, Science 371, eabf4063 (2021)

 https://science.sciencemag.org/content/371/6529/eabf4063 この論文の著者たちは、症状発現後20から240日経過した時点で188人の患者から228検体(血漿)を採取しました。そして、新型コロナウイルス関連の種々の抗体(血漿中)の力価を測定し、経過日数に対してプロットしたグラフを解析して各抗体の半減期を求めました。そのなかに抗体検査で調べられたヌクレオカプシドに対するIgGの半減期の記載があり、68日とあります。



追記 2/18/2021

東京都についても、愛知県の場合と同様な計算をしてみました。2020年12月20日現在のPCR陽性者数の累計は、51,427、死亡者数の累計は566でした[4]。東京都の人口13,960,236人で、抗体保有率0.91%ですから、検査時の無症状感染者は127,000人です。この数と検査時のPCR陽性者数の累計との和(感染者の累計数)は178,000となります。したがって、致死率(死亡数/感染者数)は(566/178,000)×100 = 0.31%と計算されます。この値は、愛知県の0.29%とほぼ同じです。ちなみに、無症状感染者数はPCR陽性判定を受けた人数の約2.5倍でした。


追記 7/27/2021

今回試みた無症状感染者数や致死率の計算が、理論的には正確ではないことに気づきました。感染者の発生が定常状態の時期に抗体検査が行われておれば理想的でしたが、検査の実施が第3波の感染拡大が進行中の頃であったのは残念でした。しかし、PCR陽性者の発生が緩やかな時期であったことを考慮すると、計算値はあながち外れていないと考えられます。